一橋大名誉教授共著「失敗の本質」から学ぶ日本の組織問題

個人や組織にとってユニークな教科書ともいうべきものは、過去の失敗体験。
自分自身の実体験、人から聞いた話、歴史、様々なソースがあれど、ここは自国日本の歴史から紐解いてみてはいかがでしょうか。
一橋大学 名誉教授である野中郁次郎氏ら6名の共助教授の著書「失敗の本質」は、日本軍と現代日本に共通する組織的ジレンマを解説する名著として52万部を記録し、長年にわたり多くのビジネスマパーソンに愛されてきました。
本日はそんな「失敗の本質」のエッセンスを3つご紹介します。

日本人も日本企業も転換点に弱い?

1900年代後半で世界一の成長を遂げたといっても過言でもない日本。しかしバブル崩壊後、1990年代から00年代の20年にわたる失われた20年が到来してしまったのはなぜか。
それは、日本経済を牽引する日本企業が同じ指標ばかり追ってしまったことが挙げられます。
日本企業は過去の成功、ヒット作に固執しすぎてしまい、同じやり方を当てようとしてしまった。
トヨタのコンパクトカーや、ソニーらのウォークマン、高機能な家電製品など、大きな歴史的成功がゆえに、市場に対して同じ見方をしてしまう成功のプライドが変化への柔軟さを欠く要因になってしまいました。
野中教授は「戦略とは、目標達成に繋がる勝利を選ぶことであり、戦術とは追いかける指標のこと」と定義します。
戦略の達成のために戦術があることを鑑みると、目標達成のために最適な指標を追いかけることが重要であることが読み取れ、つまりは市場を見ず、過去の成功を見てしまい、追いかけるべき指標を誤ってしまったのです。
日本人、日本企業は市場や社会の転換点に弱いと野中教授は指摘します。
この転換点を制した他国に、日本は国際的地位を揺るがされはじめています。
同じ構図は個人レベルでも発生しています。過去の成功者はリスクを犯さない。しかし、ハングリー精神に溢れる若い世代、成功への貪欲な思いを持った人はどんどん挑戦をしていきます。これが、企業レベルでは、スタートアップと大企業、国レベルでは日本と東南アジアなどの新興諸国との関係になっています。
ハングリーな新しい層
・新興国
・スタートアップ企業
・若者、ハングリー精神の強い層
ステーブルな既存の層

・日本
・大企業
・金持ち、過去の成功者

ゲームのルールを変えた者だけが勝つ

本書ではさらに、いまあるルールの中で最大限の結果を出すことが得意なのが日本企業であると述べられています。
ここは第二次世界大戦中のアメリカ、日本の関係を見るとわかりやすいと言えるでしょう。当時、空中戦を繰り広げていた両国の中で、相手を圧倒する優れた策は、空戦性能を上げることでした。
日本軍がそのことにこだわる中、アメリカは、勝利するポイントを空戦性能ではない点に変えてしまうのです。
つまり、熟練技能が低いパイロットでも操縦できる飛行機やレーダーの開発などを通じ、これまでの勝ちパターン・勝つために押さえておくべきポイントを自国(アメリカ)有利なものとなるように変えてしまったのです。
これは、高音質を追求し続けたソニーのウォークマンを、高音質でないながら1,000曲以上の音楽を持ち出せるiPodを開発したAppleが、顧客を完全に奪ったことととてもよく似ています。
日本企業は主に以下の特徴があると、野中教授は指摘します。
・前提条件が崩れると、新しい戦略を策定できない
・新しい概念を利用し、活用できない学習能力が無い
・目標のための組織でなく、組織のための目標をつくりがち
・異質性や異論を排除しようとする集団文化
これはある意味で、大企業とスタートアップ企業との相違点、成功者とハングリー溢れる若い層との相違点とも言えることですね。

日本でイノベーションが起きない理由

本書全体を通じて、野中教授はイノベーションが起きない組織の理由として以下を述べています。
イノベーションが起きない組織
・成功の法則を「虎の巻」にしてしまう
・集団の空気が支配する文化が強い
・そもそもイノベーションが不要な組織である
・同じ指標ばかり追いかける
つまり成功してしまったがために、これらの特徴を持つ組織は3点目にあるように、イノベーションが不要なのです。しかしイノベーションという言葉を好み、実体のない組織を作ってしまう。

とんでもない考え、世界を本気で変えるような出来事は、一流企業やハイテク設備のある研究所、潤沢な資金を持つ国家プロジェクトから起きるものとは一概に言えません。
それよりも、Apple Incのようにガレージの中から始まったように、ゼロやマイナスから何かを生み出そうとする、成功を切望することからイノベーションは生まれてきます。
これは自分らには縁のない話と思う人もいるかもしれません。
しかしよくよく考えると、ちょっと前の日本こそ最大のスタートアップであり、ハングリー精神溢れる新参者であったのです。
「達人も創造的破壊には破れる」という言葉があります。他者の達成を不要にする思考のことで、具体的には相手が積み重ねた努力と技術を無効にすることを意味します。
実はこれこそ、急成長した高度経済成長時代に、日本企業や日本人が欧米諸国を追い抜くため実施してきたことなのです。
過去の失敗、成功を正しく見つめ、国家レベルでも個人レベルでも活かしていくことが、これからの時代ますます求められるかもしれません。