AmazonのWhole Foods買収から一年、これまでに起きた変化と今後の展望を纏めてみた

 

 

記憶に新しい米国AmazonのWhole Foods買収(2017年8月)から一年。

本エントリーでは買収により、Whole Foodsに起きたこれまでの変化を纏めてみました。

はじめにWhole Foodsをおさらい

まず、そもそもWhole Foods(ホールフーズ)とはどういったお店か見ていきましょう。

▲カリフォルニア州ロサンゼルスのWhole Foods

Whole Foodsは、主として、オーガニック食品やNon GMO(非遺伝子組換え)、グルテンフリー食品などを扱う総合スーパーで、現在米国には467店舗あります。

私たち日本人に近しい例えだと「アメリカ版、成城石井」といった位置付けかと思います。

 

米国GMS(食料品/日用品小売)における同社のマーケットシェアは2%(最大手Walmartは23%)で、現在の顧客数は800万人と言われています。まだまだ小さく見えるかもしれませんが、アメリカのオーガニック市場は日本の60倍とも言われる規模で、市場全体として拡大中。GMS全体におけるWhole Foodsのシェアは日々高まっています。

Playing Catch-Up With Walmart, Amazon Offers Digital Grocery Pickup at Whole Foods

▲特に野菜や果物コーナーの広さには圧倒されます。売られている食品のほとんどがオーガニック食品です。

 

私は2017年秋まで1年半アメリカにいましたが、Whole Foodsは、現地の富裕層、日系企業の駐在員、ビーガンの方や健康意識が高い家族・独身層などによく利用されている印象でした。

店舗のロケーションを見ても、多くが日本人にとっても馴染みある、ニューヨークやサンフランシスコなどの大都市にあります。

▲デリがランチなどに人気です。

また、多くの独自ブランド商品を出しているのも特徴の一つです。

 

総じて、Whole Foodsの価格は他の小売店舗よりも高く、「Whole Foodsで日用品を買うと、家計が回らなくなる」と、揶揄するスラングで “Whole Check” という言葉が生まれたほど。

つまり、価格は高いがモノは良い、と人々の心に知覚されている位置付けです。

これはカテゴリーでいうと、日常で食べる食品なのですが、人によっては大切な日に食べる食事のためのもの、とも捉えることができます。

価格については感覚ですが、Walmartなどで売られているオーガニック食品と比較しても、1.5〜2倍ほどは価格が高いのでは、と思います。個人的にはスーパーに行く3回に1回くらい行ってみる、といった感じでした。

▲一方で野菜やフルーツなどは土地柄、安いです。

価格は、店舗が位置するエリアによっても多少異なります。サンフランシスコやハワイなど、基本的に物価指数が高い都市は価格が高いです。

(前にざっくり比較してみた際、ロサンゼルスとサンフランシスコで同じ産地の苺が1.5倍程度、デリのピザも同程度の差がありました)

 

2017年6月、AmazonによるWhole Foods買収発表

さて、前置きがすっかり長くなりました。Amazonによる買収後の変化を見ていきたいと思います。

2017年6月16日、Amazon社がWhole Foods社を$13.7 billion(1兆5,000億円程)で買収すると発表。同日のテック界の大きな話題となりました。

Amazon to Acquire Whole Foods for $13.7 Billion

Amazonのジェフ・ベゾスCEOは発表で、「ホールフーズは多くの人に愛されている。最高の自然・オーガニック食品を提供し、健康的な食事を楽しいものにしている。シナジーを出したい」と説明しています。

 

AmazonはなぜWhole Foodsを買収したのか

さて、E-Commerceで圧倒的規模を誇るAmazonがなぜWhole Foodsを買収したのでしょう。

主な理由は、①生鮮食品の配送ルート(実店舗)を手に入れたいこと②オーガニック・健康領域に進出したいこと、の2点と考えられます。

Amazonは2011年にAmazon Lockerをニューヨークで始めました。これは、自宅以外の受け取りにより、さらなる顧客獲得を考えた拡大戦略の一つです。

インターネット系の会社がどうしても埋められないのが、この物理の世界、リアル拠点の有無であるのです。

また、今後ますます市場が拡大されるとする健康産業に関して、小売最大手であったWhole Foodsを買収したことで、Amazonは一気にそのポジションを引き上げることに成功します。

ジェフ・ベゾスは著書『果てなき野望』でも「The Everything Store」(どんなものでも買えるお店)を目指していると語っています。

両社のシナジーがどれほど生まれるか、アメリカのみならず全世界が注目していますね。

 

2017年8月、買収完了、値下げセールとEchoの登場

さて、買収が完了した8月28日から、早速トマトやバナナなど一部の生鮮食品で、値下げセールが始まります。

Image result for 2017 september whole foods cuts

Whole Foods just got a whole lot cheaper

買収前後の分かりやすい価格変化により、これまでWhole Foodsを利用していなかった層も少しずつ利用し始めます。

また、”Hello Echo” “Farm Fresh” といったキャッチフレーズで、Amazon EchoがWhole Foods店舗で販売されるようになります(しかもこれが目立つ場所にw)。

食料品コーナーなどに突如出現するようになりました。

▲カリフォルニア州ロサンゼルス郊外の店舗。Echoだけでなく、Kindle Fireなども売られていました。が、価格はそこまで安くなっていなかった…。

食料品コーナーに「フレッシュな産地直送品」と題して陳列するアメリカ人のユーモアはお見事です。

 

なんとここまでで買収して1ヶ月以内です。アメリカ企業の早さが感じられる好例かもしれません。

 

2017年9月、Amazon商品の一部をWhole Foodsで返品可能に

さて、価格の値下げと商品連携の次は、配送連携です。

Amazonで購入した商品のうち、衣類や靴など一部がWhole Foods店頭でも返品ができるようになりました。アメリカは返品文化が根強いため、送料がかからない店舗返品のこの仕組みは便利と思います。

 

2017年11月、2度目の一部商品値下げ

続いては、11月後半のThanksgivingに向けて2度目のセールを実施。

この時期はイベントのメインディッシュとして使われるターキーなど生鮮食品を中心に、前回よりも多くの商品が値下げ対象となっていました。

Amazon cuts prices again at Whole Foods ahead of the holidays

 

2018年2月、即時配達サービス Prime Nowに対応

Image result for prime now whole foods

買収から半年、いよいよ大きな連携が実現します。

テキサス州のダラス・オースティン、バージニア州のバージニアビーチ、オハイオ州のシンシナティの4都市の店舗で、Whole Foods商品の即時配達サービスが開始されました。利用条件はAmazonのPrime会員であり、Prime Nowのアプリを使用すること。

Whole Foodsは商品の単価自体が高いため、一注文あたりの客単価が高く、実質ほとんどのオーダーで送料無料の即配となっていると考えられます。

 

2018年2月、Amazonカードによるポイントバック

続いては決済周り。Amazon Prime Rewardsカード(クレジットカード)をWhole Foodsで利用した場合、5%のディスカウント(ポイントバック)が受けられるようになりました。

Amazon’s latest Prime perk: 5% cash back at Whole Foods

 

2018年3月、Amazon Lockerの設置。受取や返品が可能に

Whole Foods店舗(全店舗)にAmazon Lockerが設置されるようになりました。

これによって、Amazonで買った商品の返品がしやすくなるため(無料であるため)、今後よりAmazonでの購買に繋がることが予想されます

Worried about your Amazon package sitting outside all day? Whole Foods has an answer

 

2018年4月 Amazon Primeの年会費が99→119ドルに値上げ

Image result for amazon prime

Whole Foodsとの連携が進む一方、Amazon Primeの年会費については値上げがされています。(ちなみに2014年にも79ドル→99ドルに値上げ)

アメリカの金額と比較すると、日本のAmazon Prime(年会費3,900円!)がいかにお得な価格かわかりますね。。

 

話は少し逸れますが、アメリカのAmazon Prime会員は1億人以上(2018年4月現在)。世帯に占める割合は52%で、3億人の国でこの数値は驚異的です。

アメリカの4大テック企業について分析した “The Four” (ニューヨーク大学経営大学院(MBA)のスコット・ ギャロウェイ教授著)によれば、アメリカ人で銃を所持している人よりも、Amazon Primeの会員数の方が多く、サブスクリプションモデルでこういった広がりを実現している企業は他にないとのこと。


(著書より引用)

Amazonがアメリカの家庭に深く根付いていることがわかります。

Amazon is raising the price of Prime to $119

 

2018年5月、Prime会員割引を一部エリアで開始

さて連携の動きに戻ると、今年の春先以降、AmazonユーザーがよりWhole Foodsを利用したくなる仕組みが出来上がってきます。

5月より、Amazon Prime会員がWhole Foodsで買い物をする場合に、10%のディスカウントを受けられるようになりました。5月半ばにフロリダ州の28店舗から開始され、5月末にはテキサス州、コロラド州ら12州が追加に。

Amazon Prime members now get 10% off sale items at Whole Foods, plus other weekly discounts

 

ちょうどこの時期に、AmazonGo(シアトルにあるAmazonの無人店舗。アプリのみで決済。2018年1月誕生)を体験するため、シアトルへ行きましたが、同店でもWhole Foodsの商品(プライベート商品など)も購入することができました。

関連記事:アメリカテックレポート 2018年5月編(Amazon Go、スクーターシェア、シリコンビーチetc,)

 

2018年6月、Prime会員割引エリアが全米に拡大

今年の夏にかけてはサービスの対象エリアが広がっていきます。

6月上旬にPrime会員の10%ディスカウントが、ワシントン州、ジョージア州、ハワイなど新たに10州、合計で23州が対象に拡大し、さらに6月27日には全米全店舗が対象となりました。

Savings for Prime Members at Whole Foods Market Available in All Stores Nationwide Starting June 27

 

2018年7月、Prime Now対応エリアが24都市に拡大

Prime Nowの対象エリアが3, 4, 6月の段階的拡大を経て、7月に全米24都市が対象となりました。

Amazon Expands Grocery Delivery From Whole Foods Market To Fort Lauderdale, Miami, Palm Beach, Long Island And New York City

 

そして本日 2018年8月9日、Prime Nowが最短30分対応に

長くなってきました(そろそろ終わり)。こちらは最新ニュースです。

Amazon Prime会員限定で、Whole Foodsの商品をWhole Foods店舗(厳密には店舗の駐車場)で最短30分で受け取れるサービス(サクラメントなど一部地域から)が開始されるようです。これ、すごいです。

Prime Now(アプリ)経由でのオーダー時に、商品価格に加え、およそ5ドルのエクストラチャージを払う(35ドル以上購入の場合)ことで、店舗で商品をピックアップできる仕組みです。Alexa経由での購入でも対象です。

Another Prime perk at Whole Foods: Curbside pickup

 

前述の通り、これまでは35ドル以上の購入で2時間以内の自宅配送は無料でしたが、今回30分以内という爆速を実現しています。これは大きな注目ですね。

Whole Foodsはコンビニではなくスーパーマーケットであるため、広い敷地を持つ店舗も多くあります。そういった店舗でも、夕方の時間帯など中心にレジには長蛇の列ができていることが多くあり、このサービスの価値は高いと思います。拡大に期待が集まります。

一方で弊害も?

価格が下がる、自宅でも受け取れるようになる(しかも爆速で)、返品もしやすくなる、と特にAmazon Prime会員にとっては恩恵ばかりのように見え、AmazonとしてもAmazon Fresh含めて売上が35%増えているとのこと。

良い話ばかりのようですが、一部で弊害があるようです。

 

Furious shoppers say Whole Foods’ produce has turned ‘depressing,’ ‘barren,’ and ‘bone-dry’ — and they blame Amazon

上記の記事によると、Whole Foodsで売られている商品の一部が、以前よりも「傷んでいるものとなった」「味が悪くなった」などの声が消費者から挙がっている(Amazonは変化は否定)、またノンオーガニックの大量生産品も増えた、品切れが多くなったという声が挙がっています。

アマゾンの買収で確かに安くなったけど…ホールフーズ見限るファンの不満

元々のWhole Foodsの顧客(高級層)向けであったものが、Amazonの顧客層へ少しずつ変化していると考えられます。

逆に言うと、アメリカで1億人いるPrime会員の中でもWhole Foodsの顧客は800万人しかいなかった。しかし、Amazon Primeによってそこにリーチすることができている。今はその弊害が顕著に出ているかもしれないですが、記事にあるような問題は中長期的には解決するものでは、と個人的には思いました。

この辺りは実際に店舗で買って食べてみないと分からなかったりするので、またアメリカに行った際に調査したいと思います。

 

今後の展望

価格、物流、決済手段の拡充に加え、Amazon Goの実店舗が今後拡大することで、Whole Foodsは総合的に顧客満足度の高い購買サービスとなっていくでしょう。

これまで「高価格だが良いもの」として人々に知覚されていたWhole Foodsが、少しずつ価格面で手頃になり、人々の知覚から変わってきています。それでいて、テクノロジーという組み合わせを期待させているのが現状です。

商品のクオリティなどWhole Foodsの良さを残しつつ、さらに便利な顧客体験が実現できること、一消費者として望みつつ、引き続き今後の動向に注目していきたいと思います。

 

最後に。Whole Foodsのサラダバーはコストパフォマンスがよく、味もとても美味しいです。

旅行や出張の際にぜひおためしあれ。お読みいただき、ありがとうございました。

東京都出身。2011年から株式会社NTTデータで勤務し、在職中にIT責任者として一年半アメリカ・ロサンゼルスに駐在。インド案件を経て帰国後、株式会社メルカリに転職。2018年末独立、2019年起業し、三度目の渡米でニューヨークへ。インターネットが好きです。