アジアとアメリカを繋ぐEdTechが自宅を “インターナショナルスクール” に変えうるかもしれない、という話

中国で話題のオンライン教育サービスVIPKIDから、今後のEdTech展開を考えてみました。

 

 

今春、サンフランシスコにあるEdTech(教育 x IT)企業 VIPKIDが5億ドルの大型資金調達を行いました。同社は、中国人の子供とアメリカのネイティブスピーカーを繋ぐ学習プラットフォームです。

日本でも大学生やビジネスマンを中心にここ数年、オンライン英会話がブームとなっていますが、子供向けにしかもアメリカ人のネイティブ講師で、というのはユニークなところ。

CEOのCindyMiは中国、河北省出身。17歳で高校中退、その後英語教育事業を立ち上げ、2013年にサンフランシスコで同社を創業しています。

“オンライン” アメリカ式教育

VIPKIDのミッションは英語教育だけではありません。

ミッションは “アメリカの学校教育を中国の子供に提供すること (to provide the North American elementary school experience to children in China)” 。 

 

モデルはシンプルで、学校から帰宅した中国の小学生が習い事を行うのと同じように、自宅でアメリカにいる先生とインターネットを介してレッスンを行うことができるサービスです。

Bloomberg-VIPKID

講師は全員アメリカ在住の4年制大学卒業以上の学歴を持ったアメリカ人です。

中国は子供の教育に関し海外思考が高い層が多く、アメリカの大学における留学生の1/3は中国人と言われています。(私が留学したことがある西海岸の大学でも、ビジネスコースであれ、メディカルコースであれ、本当に多くの中国人学生がいました)。

このサービスのメインユーザも、将来アメリカの大学へ進学を希望する層です。

 

需要が大きいものの、中国国内にはネイティブを含む英語教師が多くないという課題があり、また中国人はアメリカ人から教わりたいという需要が大きく、これらのポイントが起業のきっかけとなったとのこと。

"中国には2億3000万人の小中高校生に対して、
 英語教師は公式には2万7千人しかいません。
 これでは全ての未来ある子どもたちに高品質で
 個別化された英語教育は提供できません。
 しかしアメリカには500万人いるのです。"
ESL companies in China, and many of the parents
and students who pay for the classes, have long 
been known to prefer foreign teachers to be white.

参考: A 35-year-old who dropped out of high school had a vision of a utopian future for China, the US, and the world — and it’s led her to the forefront of a tech startup worth $3 billion

 

利用金額を見てみると、受講者側が支払う授業料も、教師側が受け取る給料も双方に悪くはありません。

自宅にいながら安価で、英語を中心としたアメリカの教育が受けられるというコンセプトは素晴らしいです。

 

このモデルは日本で実現しうるか?

さて、このモデルの日本展開を考えてみます。

現に中国でこのサービスがワークしているということなので、日本への展開も期待できるのではないでしょうか。(教師にとって相手が日本人でも中国人でも変わりはないと仮定します)

 

文部科学省が行った「平成28年度 子供の学習費調査」によると、公立小学校の子供で平均18,000円/月私立小学校では平均51,000円/月が、学習塾等の学校外補助学習費に充てられています。

日本においてもVIPKIDと同水準の金額(=週4レッスンで月35,000円)で提供できると仮定すると、家庭によってレッスン数を少し調整すれば、十分利用されうる価格帯。

 

また、このサービスを英会話という括りのみで考えず、アメリカンスクール(インターナショナルスクール)で行う教育を受けられるもの、という彼らのサービスコンセプトを元に考えると、こういったものを提供しているサービスはまだ日本で目立ったものはない印象です。

 

日本における海外式教育の需要

日本にいながら子供に、英語と英語を通じての海外式教育を受けさせたいという需要はどれほどあるでしょうか。

文部科学省の調査によると、インターナショナルスクールの需要は右肩上がり。現在は全国に34校あり、12,000人以上が学んでいるとのこと。これは一定量の需要が見込めるかもしれません。

 

アメリカで働いていた時に、「旦那さんの任期が終わって日本へ帰任することになったが、奥さんと子供は教育のためにアメリカに残る」、といった話を聞いたことがあります。

一度子供が経験したアメリカでの教育を継続したい、と思う親御さんは多いものと思います。

しかし、インターナショナルスクールへ通わせる障壁は、一般家庭には高いものがあります。

学費が年間で年間200万円前後かかり、5歳〜15歳までの10年間通わせるとなると、ざっくり2,500万円かかることになる他(高校入学前に家が買えますw)、立地に関しても都市部が中心です。

そのため、最近ではインターナショナルスクールよりも、通常の学校に通いながらの補完的位置づけである小規模のプリスクールの需要が大きいとも聞きます。

そういった意味で安価なオンラインによる教育は価値がありそうですね。

 

自宅にいながら “インターナショナルスクール” は実現するか?

それではこのサービスによって、インターナショナルスクールで身につくスキルをどれほど身につけることができるか。

そもそもインターナショナルでしか身につかない特別なスキルとは何か?

 

実際に通っていた知人(ベルギーのインターナショナルスクール)に聞くに、それは「英語力に加え、ディベートスキル、世界中から生徒が集まってくるため民族や宗教の違いを学べたこと、プレゼン形式の授業スタイル、サッカークラブで異文化の仲間と競い合った経験」などであったとのこと。

 

(なるほど・・確かにオンラインですべては難しい)

しかしすべてでなくとも、特に日本人が苦手とする領域(英語力、自己主張などの表現力、異文化を理解する姿勢)などはアメリカ人講師との1on1授業で学べるところが一定量ありそうです。

一方、協調性チームワークを育む力といったスキルの向上はオンラインではあまり期待できないと思われますが、こういった能力は日本社会の文化に深く根付いてるので、我々日本人に限って言えば、自国で息を吸って普通に生活しているだけでも学べそうです。

 

異文化の生活でどれほど自分を出すことができるか、その基礎力を培う目的として、日々の日本教育に+αしたオンライン上のインターナショナルスクール教育は価値があるように思います。

 

終わりに、EdTechの越境展開の可能性

DMM英会話が、実は韓国でも事業展開していることをご存知でしょうか。

VIPKIDと同じように、教える側は同じでありながら、受講者の国が変わってグローバル展開される教育サービスもあるわけです。(多少なりローカライズされたり、別サービスである場合もありますが)

世界でも日本でも、EdTechサービスは日々拡大しています。

今後日本の自宅にいながら、世界中の教師から直接、その国の教育を受けられるようになるかもしれない、という話でした。

東京都出身。2011年から株式会社NTTデータで勤務し、在職中にIT責任者として一年半アメリカ・ロサンゼルスに駐在。インド案件を経て帰国後、株式会社メルカリに転職。2018年末独立、2019年起業し、三度目の渡米でニューヨークへ。インターネットが好きです。