日本で圧倒的に利用されているフリマアプリ(個人間におけるモノの売買)と言えば、メルカリを思い浮かべる方が多いと思います。(私も売買取引100件以上のヘビーユーザーです)
国内累計7,000万ダウンロード、出品数もリリース後の5年間で10億個、と圧倒的数字です。
同社は2018年6月に上場、現在国内のメインであるフリマアプリ強化に加え、メルチャリなどの他サービス展開、さらにアメリカを始めとするグローバル展開を進めています。
さて、国内のことは肌感を持って理解している私たちですが、この記事では、海外ではどんなアプリが使われているのか、ということを見ていきたいと思います。
アメリカには独自の文化がある
まずアメリカ。いわずもがなプレーヤーが多いです。メルカリはどうなのだろう。
Market Hack編集長で、アメリカでのビジネス・生活経験が長い広瀬隆雄さんは、アメリカ文化にメルカリはフィットしないのでは、とツイートされています。
https://t.co/TCmUwsa4N3 あのさ、メルカリに投資している投資家はこの記事をじっくり読んだほうがいいよ。俺、アメリカに住んでいるし新しいものには飛びつくタイプだけどメルカリの「メ」の字も聞かないぞ(笑)
— 広瀬隆雄 (@hirosetakao) August 7, 2018
参考記事:メルカリってアメリカで使われてるの? 日本人留学生が知名度を調査
大体ねぇ、アメリカには「ガレージセール」という美風があるんじゃ。つまり自分の家の庭にガラクタ並べて近所の人に買ってもらうわけだ。わざわざ写真をUPしたりせえへん!
— 広瀬隆雄 (@hirosetakao) August 7, 2018
俺んちのワイフなんかも近所にガレージセールの看板が出るといそいそと行きよるわい。そんでもってガラクタを買ってくる。で、しばらくすると「こんなもん、いらない!」といって今度は自分でガレージセールして売るわけだ。そんな感じで同じ品物が近所で何回も転売される。 pic.twitter.com/TgOVJrhNWl
— 広瀬隆雄 (@hirosetakao) August 7, 2018
はっきり言ってメルカリがアメリカで大ブレイクする可能性はゼロだと思う。
— 広瀬隆雄 (@hirosetakao) August 7, 2018
面倒臭いんだよ、いちいちネット経由で処分するなんて(笑) これ、見てみ。 pic.twitter.com/XsRwcwk1wo
— 広瀬隆雄 (@hirosetakao) August 7, 2018
これは決して悪い意味ではなく、アメリカには不用品に関して(これまでの)独自文化があり、事情が異なるということを仰っているのだと思います。
確かにアメリカは日本と状況が異なる点が多くあります。
国土は日本の25倍と広く、Amazon PrimeのFast Shippingの仕組みを使っても、最低2日はかかってしまうなど、ロジスティクスが日本以上に十分でありません(逆に日本が神すぎる)。
また、実際にガレージセールというのは日常的に見かける光景です。特に都市から少し離れた郊外などではよく行われている印象があります。大体、車で来てそのまま持ち帰ります。
さらに、寄付の文化もあります。個人的にはそもそも国民性として、手先を使い一つひとつの不用品を綺麗にアップする文化自体があまりないようにも思います。
さて、モノの売買に関しては、その国・土地における文化がサービス選択における重要なファクターである、ということを念頭に入れ、世界各国のモノ(中古品)の個人間売買がどのように行われているかを見ていきます。
アメリカ人が使っているオンラインサービス
アメリカにもオンラインで中古品を購入する仕組みがあります。ここでも広瀬さんのツイートを引用させていただきます。
要らないものを処分するのなら、アメリカ人はクレイグスリストを使います。とても原始的なサービスだけど。でも自分の家の前にガラクタ並べるだけで売れてゆくのに、なぜいちいちネットにUPする必要があるの?(笑)だから競合相手は最先端のテクノロジーやサービスじゃない。ローテクだ。 https://t.co/7dE3hrp8Qv
— 広瀬隆雄 (@hirosetakao) August 7, 2018
これがcraigslist。1995年にサービスを開始し、現在も月間200億PVという驚異的なアクセスを誇るサイトです。
基本的に個人がここに投稿し、コメントでやり取りしてモノの受け渡しを直接行います。
シンプルなUIにモダンな感じはありませんが、それでも機能としては必要十分。エリアごとにページが分かれています(下の例はSF Bay Area)。
モノから住宅、仕事、修理や法律などプロフェッショナルサービスの提供もカテゴリとしてあります。ここに来れば何でも揃ってしまいます。あまり知られていませんが、日本版もあります(月間10万PVほどあります)。
本社はいわゆるテック系のメッカであるベイエリア(サンフランシスコ周辺)にありますが、オフィスも近年のテック企業といった感じではありません。
私もアメリカで住宅を探す時に使ってみたことがあります。掲載数が多いこと自体はとても良いのですが、エスクローの仕組み(プラットフォーム側が安全を担保するもの)などがあるわけでないため、安心感はあまりないかもしれません。
それでも今なお圧倒的に使われているサービスなのです。
仮説として、アメリカ人は(これまでは)、安心安全はある種自身の責任で守り、シンプルで経済合理性の高いものを求めているのでは、とも考えられます。
近年、この一つのサービスであったcraigslistを、各サービスが分野ごとに侵食しており、今後craigslistがどこまで現在の地位を維持できるかはわかりません。
アメリカであらゆるモノを取引できるプラットフォーム “craigslist” が多くの他サービスによって分散化されていることがよくわかるスライド。
住居、家具、衣類、仕事、パートナーなどすべてが1サイトで完結していたが、エアビーやIndeed、デーティングアプリなどの登場により、分散化の動きが顕著。 pic.twitter.com/hl890cEUXv— Satoshi Onodera (@satoshi_gfa18) August 18, 2018
実はオンラインのサービスは多い
アメリカでは他にも、eBayやAmazon、さらにアメリカ国内では2016年から、Facebookでモノの売り買いや送金を行うことができます(同じサービス内で使える)。
アメリカはSNSの中でもFacebookを好む層が相対的に多いため、こちらを好む層も多いと思われます。
2018 US SNS User by statista.com 単位:Million Users
以前に私が利用した印象としては、この中でeBayはサービスの使い勝手が非常に悪く、Facebookは見ず知らずの人に会うことになるので、怖いという印象(実際には会っていません)。
ネイティブアプリでいうと、シアトル発のユニコーン企業、OfferUpがプレーヤーとして挙がります。
OfferUpは地域に限定して直接会っての取引を前提にしていますが、前述のCraigslistやeBayと比較して、スマホに特化したUIとなっています。
アメリカは日本でイメージされている以上に、意外と現金決済率が高く、直接取引による現金決済にはニーズがあるとも思われます。(しかし、日本人からするとやはり直接会って取引するのは、結構怖い。。)
同サービスは2011年に市場にいち早く参入しており、既に4,200万ダウンロードされています。
OfferUpを追随するのが、Letgoというニューヨーク発のアプリ。
2015年設立と後発ながら、既に1億ダウンロードを超え、月間のアクティブユーザーは2,000万人という数字を誇っています。
Letgoも基本的にはリアルで会う直接取引です。
つまり、アメリカにもオンライン系のものもあるにはあるし、使っている人も意外といるんです。しかし、日本人からすると結構これらを使うのはハードルが高い。
アメリカ在住の日本人はびびなびを使う
では、アメリカ在住の日本人がどうしているかというと、多くの人がびびなびというサービス使います。
駐在員も学生も、基本的にはまずこれで探すといっても言い過ぎではないと思います。
これは、日本人同士が日本語で取引するプラットフォームで、そこにはそのワード以上の安心感があります。
このサービスもエリアごとに分かれており、ニューヨークやLA、サンフランシスコなどアメリカの主要都市22をカバーしている他、カナダ、メキシコ、イギリス、ドイツ、フランス、中国、ブラジルなど、世界中でサービス展開しています。
海外で働く日本人にとっても、仕事や住宅、自分が使うモノは、文化と語学が分かる日本人同士であることが安心、という声は実際、強いです。
日本人は相対的にモノを大切に扱う誠実な民族、と認識されることがあり、敢えてこのプラットフォームから購入商品を探す現地の方もいるとも聞きます。
びびなび以外にも、各地の日本食料理店、日本食スーパーにフリーペーパーが置かれており、オフラインでもモノや仕事の仲介は行われています。
さらに現地在住者向けの国ごとのサービス(アメリカ在住の韓国人向けプラットフォームなど)も各国版それぞれあります。
オンライン(会わないで取引)/オフライン(会って取引)以外に、人種という切り口もあるわけです。
住む場所も影響
一方、ニューヨークやサンフランシスコなどのアメリカ都市圏では、また事情が異なります。
都市に限っていえば、ロジスティクスはさほど影響がないし、前述のオンライン系サービスにおいても、わざわざ相手の家に取りに行く、ということをせず、どこかアクセスの良い安全な場所で落ち合うこともやりやすい。
特にニューヨークでは、メルカリであったり、ブランドモノのトレードイン(下取り)を扱うMaterial Wrldであったりが多く利用されているという声も挙がります。
日本の常識が世界の常識だと思ったら、大間違い。もちろん、日本でのメルカリの受け容れられ方がアメリカでも通用する地域はあると思う。たとえばマンハッタンとかサンフランシスコ市内とか。でもそれは例外。
— 広瀬隆雄 (@hirosetakao) August 7, 2018
広瀬さんもこれらの地域は例外、とツイートされています。
参考:米国版メルカリはなぜヒットしたか? ニューヨーク在住者が語る「現地の使い方」
参考:ニューヨーク発ファッションEC「MATERIAL WRLD」が10億円を調達 ー スタートトゥデイらが出資
ここまでアメリカのサービスを見て、結論として分かることは、「アメリカでは、非常に多くのセグメント(アナログとオンライン/人種/エリア)に市場が分かれており、一括りにすることが極めて難しい」、と言えるでしょう。
ジャカルタでは、ブログとLINEグループで取引されている
日本の駐在員の方も多い、インドネシアのジャカルタ。こちらはかなりユニークです。
ブログとLINEグループが十分にサービスとしての機能を果たしているようです。
ブログ経由で連絡くれたジャカルタ駐在の商社マンとランチ。面白い話を聞きました。現地で引越しのモノの処理はどういうサービスを使うか尋ねたところ、影響力ある駐妻ブログ(と数百人規模のLINEグループ)がプラットフォーム化し、そこで売買が行われているとのこと。craigslist的なものはないのかな
— Satoshi Onodera (@satoshi_gfa18) August 17, 2018
ちなみにこちらのサイトとのこと。年間およそ1,000円の利用料を払ってクローズドなグループに入れるというモデルである模様、2013年現在で会員250人とのことです。1994年からってすごいですね。https://t.co/TnDi4bt2kt
— Satoshi Onodera (@satoshi_gfa18) August 18, 2018
当該サイトは以下。主に現地のママさんコミュニティとなっている情報ポータルのようです。
これは完全に、現地在住の日本人に特化した(かつクローズドである)もののようですが、発想が面白いです。
生活情報や悩みに関する相談などのコミュニティ機能も併せ持っているため、駐在員の多い国や地域では、この需要は日本人に大きくありそうです。一種のオンラインサロンのようですね。
インドでは現金代引できるサービスがある
続いては人口13億人のインド。近年Snapdealやamazon.inなどE-Commerceが非常に盛り上がっています。そんなインドのサービスがこちら。
インド版メルカリELANIC。C2Cにおけるモノの売買プラットフォームの中でも、チャットによる交渉のしやすさ、SNSライクなアカウントで差別化しており、法人も出品している。決済はもちろんPaytmやWalletやクレカに対応しており、現金引き渡しもできる。越境などは対応しておらず、インド内のみの模様。 pic.twitter.com/iHX7G0EkDm
— Satoshi Onodera (@satoshi_gfa18) September 3, 2018
このELANICはオンラインサービスでありながら、現金決済(商品の現金代引)が選択できるのが興味深いところ。
というのもインドは、2016年に約95%であった現金使用率をモディ首相によるトップダウンのDemonetization(高額紙幣廃止)により、急速にキャッシュレス化を進めています。それでも今なお現金利用率が高く、この事情は他国とは異なるわけです。
参考:Did Demonetisation Change India’s Cash Habits?(Bloomberg)
また、このサービスは、より出品している個人の顔が見えるサービスになっています。顔出し実名で登録しているユーザーがほとんど、フォロワー制も機能しており、よりSNSライクになっています。
人口ボリュームがあるインドでは尚のこと、ワークしたら差別化になりそうな機能です。
中国では信用経済に基づいたサービス設計になっている
最後は、何かと話題の中国テックから。中国トレンドに詳しい、NewsPicksの新プロピッカーであるこうみくさんに先日お聞きしたサービスをご紹介します。
アリババが運営する閑魚という以下のサービスです。
このサービスも基本的にはメルカリなどと同じ仕組みなのですが、非常にユニークな機能があります。
以下説明が分かりやすいのでツイートを引用します。
中国版メルカリ🇨🇳の闲鱼。
買い手と売り手にトラブルの時に、公開裁判形式にて、第三者に投票形式で、勝ち負けを判定させ、返金の可否を判定できる機能が搭載されている。たしかに、これでカスタマーサポートセンターのコストが削れる…!!#中国トレンド#中国アプリ pic.twitter.com/llXf4JLVhx
— こうみく🇨🇳@中国トレンドスペシャリスト (@love2010624) September 3, 2018
つまり、取引でトラブルがあった際、これは買い手の過失か、売り手の過失か、ということを仲裁として他のユーザーが判定する仕組み。なんだこれ、面白すぎる・・。
以下の赤と青のバーで、どちらが支持されているかわかりますね。
これは中国で芝麻信用(セサミ・クレジット)の仕組み、思想に基づいています。
「信用に足る行動をすれば評価され、信用スコアが上がり、融資などが低金利になる」など、他サービスにも展開され、ベネフィットを受けることができる=これによって性善説に基づくサービス設計ができる、というものです。
以上、ここまで世界の個人間におけるモノの売買について見てきました。
アメリカはセグメントが細かくエリアのみならず人種なども影響、インドは現金決済もできるプラットフォーム、中国は信用に基づく設計、そして世界各国の日本在住者にニーズのあるサービス…など、モノの売買は文化的特色を強く受けていることがよくわかります。
個人的には、冒頭述べたような壁や他の壁も超え、日本発のサービスがアメリカはじめ世界で広く使われることを願います。
お読みいただき、ありがとうございました。